遠くの方で、電話の呼び出し音が鳴っている、ような気がした…。
いや、確かに鳴っている。
「ウーン………」ボクは、遠い、遠い、意識の彼方から、戻ってこようと努めた。
瞬間、自分が何処で寝ていたんだっけ?という思いにとらわれたが、間もなく、警備の仕事で、某物流会社に来ており、仮眠時間であったことを思い出した。
「!?…やべぇ!寝過ごしたか!」一気に目が覚めて、時計に目を向けると、24時20分を示している。仮眠時間は4時間なので、02時00分までのはず……内線電話の呼び出し音は、まだ鳴り続けている。
「何だっつーんだよ!…」ボクは受話器を取り上げ、耳に当てた。
「アッ!ウエタツさん!大変です!!火事です!!!」警備室にいるHの声が飛び込んできた。
「…えっ!マジッ!!……バカッ、んで、119番通報、消防車は、呼んだのか?!」
「ハイッ!呼びました!今、もう、大変なことになっていて……○×△?!▼□…」
「分かったッ、すぐに行く!」身支度を整えると、ボクは仮眠室のドアを開けた。
!!!…焦げ臭いニオイが鼻をつき、前の廊下の天井付近に、もぁ~~っとした煙がたなびいている…。
「これは!……マジやべぇな!」ボクは、同じ2階にある警備室へと、廊下を猛ダッシュした。
警備室のドアを開け、飛び込むと、慌てふためいたHの顔があった。警備室の窓からは、正面の、ロータリーになった前庭が見下ろせるようになっている。覗き込んでみると、既に十数台の消防車で埋め尽くされている。救急車、パトカーもいるようだ。(写真はイメージです)
「SとKが、出火場所と思われる、一番上の6階の近くにいるようです!」「火報(火災報知受信機)は?確認したのか?」「いや、まだ…」ボクは警備室を飛び出し、正面の大階段を駆け下りると、階段脇にある、設備室に飛び込んだ。室内にけたたましく警報のベルが鳴り響いている。
ここに「防犯監視盤」とともに、数十ものエリアに区分されたパネルの付いた「火災報知受信機」があるのだ。出火場所は?と、パネルを見ると、なぜか全てのパネルがランダムに明滅を繰り返している。とりあえず警報ベルを止めようにも、止まらない。スプリンクラー発動を止めないと…などと思いつ、設備室を飛び出し、消防車の群れに飛び込む。
消防士に呼び止められた。「最上階には、どこから上がれますか?」指差す方を一緒に見上げると、6階の窓から夜空に向かって、黒い煙がモクモクと立ち上がっている。「そ、そこの外付けの非常階段から…」腰の鍵束からカギを取り出すと、非常階段へと続く柵のドアを開けた。
再び警備室に戻った。しばらくすると、その日は非番でいなかった、警備隊の隊長が、血相を変えて、飛び込んできた。……正直なところ、ここら辺からの記憶が、あまりない。騒然とした、時間が過ぎていった……。
幸いボヤで済んだようで、死傷者などもなく、間もなく鎮火が確認され、消防車の群れは帰って行った。
物流会社なので、貸し倉庫なども沢山あり、夜中でも棚卸しのバイトさん達が、数十人もいたりもする。
出荷の原因は?というと、どうも放火ではないか?ということになったらしい。泊まりで勤務していた警備員にも疑いの目が向けられ、取り調べを受けたようだ。「ようだ」というのは、ボクは仮眠時間であったことから、取り調べの対象から外れたのであるw。
後日、隊長だけを残して、警備隊の全員が総入れ替えとなり、異動となった。警備員が犯人だった、ということでもなかったようだが、詳細は聞かされないまま、終わった。
長いこと警備員などをやっていても、火災の「真報」に遭遇することは、現場にもよるが、そうそう滅多やたらにあるものではない。大概が「誤報」発報である。夜中の「防犯監視盤」の「侵入」発報にしてからが、「ソレッ!!」と現場に急行してみると、ハトや雀が入り込んでいた、なんてことがザラである。
……もう十数年も前のことでありましょうか。かなり記憶が曖昧になっているところもありますが、思い出しながら、書いてみました。
つい最近、京都で痛ましい放火事件がありました。亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。
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